次に呑む日まで

呑める日が来るまでの往復書簡

感想文(2022年5月)

爽やかな季節となりました。九州よりジュン・チャンです。お手紙の返事は週末に書きます。

 

【2022年5月】

(映画)

① 『屋根の上に吹く風は』

② 『ホリック xxxHOLiC

③ 『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』

④ 『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』

 


(本)

遠藤周作『沈黙(新潮文庫)』

②ローズマリ・サトクリフ作/猪熊葉子 訳『太陽の戦士』

③ ひすいこたろう『3秒でハッピーになる 超名言100 (3秒でハッピーになる名言セラピーシリーズ)』

 


【所感】

(映画)

① 『屋根の上に吹く風は』

広島のハチドリ舎を訪れた際に知り、急遽観に行った。鳥取県の山あいにある新田サドベリースクールの日常を捉えた作品。

冒頭、子ども達が屋根に登る場面から感極まった。画面を通して子ども達を観て、この場所と出会えて良かったなあと思った。

作中、洋ちゃんが「嫌なら嫌って自分の気持ちを言えた方が良い」と発言する場面があった。受けてきた教育や職場環境を振り返ると、自分の気持ちに蓋をして、嫌と言えなかった場面が多々あった。これって人権教育の根っこじゃんって後で思った。

上映前に参加してしまったトークショーも盛り沢山だった。「短期的な評価ではなく何を残せるか。」「自分で感じて考えて決めて行く。」とスタッフのどなたかが仰っていたようなのだが、自分の字が汚くてわからなかった。

教育基本法改正や教科書検定により、政治がジワジワと教育に介入し、戦前のような思考停止や、発言しづらい雰囲気が戻ってきている公教育とは対照的な取組みだ。

いずれにせよ、教育とはどんな未来を子どもに託したいかという、大人のエゴであり、思惑であり、願いであるようだ。子どもが主体的に考え、決定していくサドベリースクールが、希望に思えてならない。

https://www.yane-ue.com

 


② 『ホリック xxxHOLiC

原作と設定は同じだけど話が違っていて、観終わった後に批判が多いことを知った。とは言え自分、原作の記憶が朧げ、というかツバサと混じっている。個人的には、映像(舞台装置、照明、小道具が贅沢)も役者も美しいし、主題歌セカオワだし、美しかったから良い。

 


③ 『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』

石川県から沖縄へ移住し、高校3年間を過ごした菜の花さんが見た沖縄を取り巻くドキュメンタリー。老成していると言えるくらい、とても落ち着いていて、17〜18歳とは思えなかった。声や話し方も静かで真摯で、聞きやすかった。

本作は沖縄テレビの記念作品とのことで、菜の花さん自身の体験、取材から考えたこと、行動したことの合間に、沖縄でこれまで起こってきた米軍軍属によるレイプ事件や飛行機墜落・部品落下、政府の対応についても組み込まれ、戦後沖縄が晒されてきた状況について視聴者が時系列で理解できるような構成になっていた。在任中に亡くなられた翁長県知事の映像も何度か流れたが、癌に冒されながら演説をする姿が流れた時、訃報を聞いた時の気持ちが蘇った。

大学卒業時、恩師の勧めで佐喜眞美術館を訪れた時のことを思い出した。米軍の普天間基地の真横に建ち、屋上からは飛行場内を見下ろすことができる。学校も住宅も基地の真横にあるが、轟音、低空飛行でヘリが飛んでいる樣が衝撃だった。青森にいた時「三沢基地から飛んできた機体がうるさい」と思っていたが、そんなの比にならないくらいだった。「戦争は終わってない」と直感的に思った佐喜眞美術館での実感が、今も自分の中で何かの原動力になっている。

映画のなかで、米軍のヘリから部品落下が続いたことを受けて、飛行制限の訴えを国にしていた女性の言葉が全てだ。「命の話をしている」人の生活がある。

やや飛躍するかもしれないし、個人的には男女比率なんて話をしているのが本来時代遅れだと思うのだが(男女で分けられたら自分の居場所がないため)、意思決定層の半分を女性にしないと、現状は変わらないようにも感じる。もちろん、男性優位を内包したり、事実を捻じ曲げ都合の良い神話を語るような輩ではなく。

http://chimugurisa.net/#intro

 


④ 『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』

同じアパートの隣室に住む高齢のレズビアンの話、という説明書きで観に行った。

娘と息子がいるマドは、子ども達にカムアウトができないまま脳卒中で倒れ、会話や歩行に後遺症が残る。恋人のニナは、なんとかマドと一緒にいようと、あの手この手を尽くすが、二人の関係を周囲が知らない中で、事は上手く進まない。二人の関係を知って戸惑うマドの娘が、マドを施設に入所させるが、マドがニナに電話して場所が発覚し、ニナがマドをアパートに連れ帰るが…終わりはモヤっと中途半端。

本作を通して思ったのは、「意識がはっきりしているうちに、やるべきことはやっておかないとアカン」ということだった。合理的に考えると、子どもらからの拒否・反発に遭ったとしても、事前にニナとの関係についてカムアウトしておいた方が、何かあった時の体制づくりはしやすいはずだ。亡父からの虐待(と娘が表現している場面が作中あったため利用)を受けながら、離婚することなく看取り、子との関係も維持したマド。マドの臆病さ、弱さがなかったら、全く違う話になっていただろう。

かと言って、マドの臆病さを責められる人なんているのだろうか。恋人や家族といった、大切なものがあるなかで身動きが取れなかったマド自身の苦悩を想う。

劇中歌の効果ヤバしヤバし。最初と最後に流れる音楽同じだったけど、意味合いがまた違っていて、気持ちがシュンとした。

 


(本)

遠藤周作『沈黙(新潮文庫)』

人間はどこまでも惨いことができる。同じ人間を虫けらのように扱い、殺すことだってできる。

本作で描かれる江戸時代の百姓によるキリスト教の信仰とは、極楽浄土の信仰に近いようだった。現世利益のような。百姓の中には、信仰のためというよりも、現世での凄惨な人生を憂いて、拷問の末亡くなった者もいたのではないだろうか。

神とは何か、信仰とは何か。生きるとは。徹底して突き詰めていた。最後に司祭が至った境地について、圧倒されすぎて掴みきれなかった。

 


②ローズマリ・サトクリフ作/猪熊葉子 訳『太陽の戦士』

本作は、あの上橋菜穂子先生(守り人シリーズや『鹿の王』の著者であり、人類学者)が影響を受けた作品の一つらしい。上橋先生のエッセイで知り、ずっと読みたかったのを思い出し、とりあえず一冊読んでみた。

いわゆる「児童書」に分類される本の共通点として、情景の豊かさが挙げられる。特に、歴史やファンタジーとタグがつけられる作品は、その傾向が強いように思う。一行目を読み出した瞬間に、身体ごとマルっと引き込まれる感覚がある。本作を読み出した瞬間がまさにそれだった。風が吹き抜けた。

本作では、島の自然が作り出した景色の描写から物語が始まる。そこから間もなく、主人公ドレム少年が置かれる過酷な状況を、読者は知ることとなる。そこから、ドレムの闘いが幕を開ける。

風景や生活の描写だけではなく、狩りや戦闘の場面もリアルで、上橋作品に通じるものを感じた。主要な武器が槍であるところも、バルサを彷彿とさせた。圧巻の戦闘場面、主人公ドレムの苦悩と葛藤、哀しみを描いたのち、ラストが「こうきたか!」という感じだった。俗に言う「甘い雰囲気」なんか微塵もなく、しかしそれが良かった。同じ道を通過した者同士の、自然な結末。僕は背中合わせで一緒に闘う仲間の方が憧れるけど。守り人シリーズバルサとタンダの関係性も思い出した。

 


③ ひすいこたろう『3秒でハッピーになる 超名言100 (3秒でハッピーになる名言セラピーシリーズ)』

前職でご一緒した方からいただいた。就寝前にちょっとずつ読んだ。眠りにつくのに良い言葉のラインナップだった。気軽に見開きでパッと読めるのが良い。