次に呑む日まで

呑める日が来るまでの往復書簡

感想文(2022年10月)

ジュン・チャンです。九州も朝夕寒い日が続くようになりました。10月頭は京都で半袖だったのが信じられない。

 

(本)

① 江國 香織 いわさきちひろ『パンプルムース!』

② 信田 さよ子 上間陽子『言葉を失ったあとで』

③ 清水 晶子『フェミニズムってなんですか? (文春新書 1361)』

④ 山尾 三省 『火を焚きなさい―山尾三省の詩のことば』


【所感】

① 江國 香織 いわさきちひろ『パンプルムース!』

京都のメリーゴーランドで発掘。いわさきさんの絵に?(というか絵を?)江國さんが詩を合わせたもの。

収録作品のなかで、自分は「なくときはくやしいの」という詩に共感した。

いわさきさんのイラストが鮮やかで、生き生きしている。


② 信田 さよ子 上間陽子『言葉を失ったあとで』

国試に向けた勉強中に発見。ちょうど上間さんの『海をあげる』を読んでいたタイミングで、しかも目指す職種の信田さんとの対談とのことでもあり、買ってしまった。やっと読んだ。

まとめよう、まとめようと思っていたが、時期を逸してしまった。再読時にちゃんとまとめることにした。付箋がめちゃくちゃ生えている。頷く部分、唸る部分、ともに多かった。多過ぎた。


③ 清水 晶子『フェミニズムってなんですか? (文春新書 1361)』

清水先生の新刊ということで、楽しみに手に取る。フェミニズムの歴史から始まり、これまでフェミニズムが扱ってきたテーマについて平易に解説している、ポケットブックのような構成。

大変読みやすい。何より、とっつき易い。著者の慎重かつ大らかなスタンスによるところが大きく、安心して読める内容だった。

わかりやすい、とっつき易い、という点では入門書としてお勧めしたい一冊だ。

逆に言うと踏み込んだ研究論文とは毛色や目的が違うため、これを足掛かりに、別の著書も読むともっと深まる、そんな位置づけであるように思われた。

対談が大変示唆に富んでいて、読み応え抜群だった。

以下、印象に残った箇所を引用。

[長島 私の場合は第二次性徴が始まった頃から、自分の身体が思わぬ方向へと変化することに対して戸惑いを感じていました。これまで通りに身長だけ伸びて、男子に混じって外で遊べるような、おっぱいもお尻も大きくならない自分でいたかったというか。でも、周囲の人たち、特に男性たちの反応から、自分の身体が私の意思を置き去りにしてどんどん「女」に変化していることを思い知らされました。だから、なぜこの身体に私が入っているのだろう、みたいな疑問があったと思う。

(P48〜49「対談Ⅰフェミニズムに救われた二人の対話-長島有里枝×清水晶子)]

↑わかる、わかる、と頷きながら付箋貼った。

[インターセクショナルな視点は、差別を均一化し、簡略化することの危険性に注意を払うことを要求します。同じ女性同士でも白人女性と黒人女性、シス女性とトランス女性では、あるいは同じ黒人同士でも黒人男性と黒人女性では、差別の経験がまったくちがうことがあるのだ、という認識を前提に、私たちの社会が構造として何を中心に置き、何を軽視したり後回しにしたりしているかを考えることが、インターセクショナルな視点を持つ出発点となるのです。(P77)

 マジョリティに近い人ほど、「私の女性としての経験は、あなたの経験とはちがうかもしれない」という前提を受け入れるところから始める必要があります。「同じ女性同士だからわかりあえるはず」ではなく、「私とあなたは同じ女性であってもちがうし、あなたの経験を私はよくわからない」ということを確認しあって、そのちがいの背景にある差別や抑圧の構造への理解を深めていくことが大切なのです。そうやってさまざまな差別や抑圧が互いにどう関わっているのかを念頭におきながら、その中での性差別がどう機能しているかを改めて考えていきましょう、というのがインターセクショナルなフェミニズムだ、と言えます。(P78〜79  5 フェミニズムに(も)「インターセクショナル」な視点が必要な理由」)]

[清水 理性だの論理だの公的な言語だのというものと、そこに収まりきらず、そこからすり抜ける身体経験や感覚。どちらもがフェミニズムにとっては重要になると思うのです。身体経験や感覚にはとても具体的で個別な側面があって、抽象化して共有しきれない部分が常に残る。かといって、それぞれ個別の身体経験や感覚にとどまって、それだけをベースにして運動や社会や政治を考えることもできない。

 両者のすり合わせは、学問に限定せず運動としてのフェミニズムにとっても、重要で難しい課題だと思います。とりわけ、多数派ではない人々の身体経験やそこから紡がれる言葉をどのように共有し理解していくのか。そもそも共有したり理解したりできるのか。それは間違いなくフェミニズムが考えてきた、そして考え続けるべき重要な問いなのですが、実際には、色々な局面で、なんて難しい作業だろうと思うことが多いです。

(P235「対談Ⅲ 共感の危うさと生き延びるための言葉」)]


④ 山尾 三省 『火を焚きなさい―山尾三省の詩のことば』

船乗りが屋久島で知ったと教えてくれた。イラストレーターさんに勧められて立ち寄った京都のメリーゴーランドで本書に遭遇。悩んだが、ご縁を感じて購入。寝る前などにゆっくり味わった。朴訥とした飾らない言葉選び、描写は、自然のなかに還るような感覚を生じさせる。