次に呑む日まで

呑める日が来るまでの往復書簡

感想文(2023年1月〜2月)

ご無沙汰してます、ジュン・チャンです。

仕事やら転居やらバタバタ過ごしていて、まとめて更新となりました。

 

(本)

吉本ばなな『キッチン』

② 藤田 早苗『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別 (集英社新書)』

佐野洋子『死ぬ気まんまん』

④ メアリ ダグラス /塚本利明 訳

『汚穢と禁忌 (ちくま学芸文庫)』


(映画)

①『レジェンド&バタフライ』

②『そばかす』


【所感】

(本)

吉本ばなな『キッチン』

2年前の年末年始も、吉本ばななを読んでいた記憶がある。あびちゃんが朗読企画でくれた『王国』シリーズだった。ふとした会話から『キッチン』の話題になり、そういえばちゃんと読んでないなあと思って借りた。

大切な人との死別を端緒に、料理すること、食べるということ、誰かとともに在るということが描かれる。

人は食べることで紐帯を作っている、というのを、磯野真穂先生の『なぜふつうに食べられないのか: 拒食と過食の文化人類学』で読んだ。『キッチン』で扱われているのは、まさに食べる行為そのものと、食べる場を共有することにより、得難いものとなる絆のようなものであると思った。

漫画『作りたい女と食べたい女』に出てくる、会食で緊張し食欲が湧きづらくなる南雲さん(第34話「みんなといると」https://comic-walker.com/viewer/?tw=2&dlcl=ja&cid=KDCW_FS00202041010041_68)の話を思い出した。

言葉選び、文章表現がとても魅力的で、付箋を貼らなかったのが悔やまれる。登場人物みんなが愛おしいと思える作品だった。


② 藤田 早苗『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別 (集英社新書)』

自分がずっと何年間も考え続けて、ある日ふと「全ては人権問題、人権感覚の欠如による問題ではないか」と思い至ったことを、簡潔に分かりやすくまとめてくれている一冊。意外となかった内容。本書を読むことで、日頃のもやりの背景を理解することができるだろう。具体的な事例も多ジャンル多数載っており、海外での具体的な市民運動によるアクションの実践事例には大変勇気付けられる。

本書の出だしに書かれていた、特定秘密保護法案成立までの間の国際機関への働きかけなど、まるで映画を見ているかのような臨場感を感じながら読んだ。

目先の変化には直結しなくても、3年後、5年後を見据えて、自分ができることを地道に続けていくことが大事だと思った。


佐野洋子『死ぬ気まんまん』

初の佐野洋子。快活さが溢れる表題作のエッセーから、一転して茫漠さが滲み出る「知らなかった」の温度差。しかし豪快さはある。この部分が好きだった。

[ 突然私の隣に坐っていた松葉杖の女の人が、「あの白血病の若い人やっぱり駄目だったね」と言った。

 堀辰雄の「風立ちぬ」みたいな二人だったと思った。私は三メートルくらい遠くを何回か透明なフィルムのように通過していった若いカップルをただ何秒かながめていただけだった。

 その時、ただそれだけだったのに猛烈な淋しさが私をつき抜けた。

 子供の時、もう遊ばなくなった、ガラスのおはじきの一つがどうしても見つからなかった時のとり返しのつかない淋しさと同じような気がした。小さな私の子供の宇宙から、大事なものが消えたことは、どこかにまぎれ込んで、また出てくるとか、ふざけて兄が盗んで例えば兄のポケットにあるとかいう望みは持ち得ないことを私は知っていた。消えたのだ。私の小さな宇宙から。言葉は知らなくても、それは永遠に失われるということを納得せざるを得ないことを知る淋しさだった。

 口をきいたこともない、私と関係もない人が、もう決して、静かに透明のまま私の前を通り過ぎることはないのだ。

 私にとっては通り過ぎるだけの人が永遠に失われたことが、この世の大切なものが消え失せてしまったとり返しのつかない淋しさを私に与えたことにショックを受けた。(P152〜153)]


④ メアリ ダグラス /塚本利明 訳

『汚穢と禁忌 (ちくま学芸文庫)』

2022年11月から開講した、磯野真穂先生によるFILTR講座「人類学の古典に親しむーメアリ・ダグラスというエアポケット」https://filtr.stores.jp/items/632e5f18c36dbe4e4e8d81f2

受講に合わせて、前半・後半合わせて4ヶ月間、毎週1章ずつ唸りながら読み進めた。

本書と出会ったのは学部生の時だからもう10年近く前か。「『汚い』と思うこの感覚(例えば、抜け落ちた髪の毛、自分の身体、ある人をそのように表すこと)はなんだ?」から図書館で検索して、本書の背景も何も分からず読み、全く理解できなかった。当時2回読んだが挫折した。

数年前に、磯野先生の『他者と生きる』か『聞く力を伸ばす』の授業で触れられたのをきっかけに購入したは良いものの、途中まで読んで止まっていた。計4〜5回読んで挫折している計算になる。そんな折、講座開講を知り、お金も厭わず勢いで申し込んだ。

結果、前半では毎回レビューシートも提出できたが、後半は開業走りだしと転居が重なり、授業についていくだけで精一杯となってしまった。

そんななかでも、磯野先生のガイドにより、論稿と自身の属する文化圏・社会での生活体験を結びつけながら「腑に落ちていく」感覚は非常にワクワクする時間だった。4ヶ月間精読し辿り着いた最終章に圧倒された。最終章を読み終えた時、自分のなかに一陣の風が吹き抜けた。ダグラス先生、ぱねえっす。


(映画)

①『レジェンド&バタフライ』

「信長と濃姫の関係性に焦点をあてた作品って、案外なかったんじゃね?」と思い、綾瀬はるか主演ほか、脇を固める俳優陣もよかったので、ファーストデーで久々行ってみた。

東映の総力を感じる圧巻の衣装、セット、小道具、化粧。気になったのは、一部時代背景とは合ってないんじゃないかと感じる言語表現があったような気がするが、東映だからあったとしてもわざと分かりやすくしたのかな、とも思った。

気弱な信長が役割演技に押しつぶされながら、最初っから好きだった濃姫に良いところを見せようとした結末が、凄まじいエンタメだった。

一瞬だった北大路欣也、全てを掻っ攫った家康(斎藤工ってわからんかった)、サイコパス明智(宮沢氷魚)、麗しき蘭丸(市川染五郎)、安定の伊藤英明中谷美紀。単純だからこの脇役ラインナップでもう楽しかった。


②『そばかす』

前職の同期が教えてくれて、ブルーバードへ観に行った。平日3人しかいない映画館て贅沢。没頭できる。

ふっつうの日常を普通っぽく切り取ったり演じたりするのって一番難しいことだと思うが、それをしれっとやっていた作品。

作中、主人公が告白された際にとった反応、人によっては大袈裟に思われるかもしれないが、自分は「ああー!わかるぞわかってしまうぞー!自分が悪かったんじゃないかって思っちゃうやつー!」と内心共感の嵐だった。別に悪くなんかないのにね。

あんまり好きじゃなかった前田敦子が好きになった配役。最後5分くらいしか出演しない北村匠海の、全てを掻っ攫っていた感、からのエンディングの歌が本当に全てを掻っ攫っていって、自分にとってはただただ応援歌だった。本作の主人公のような、自分みたいな人間だって生きていていいし、幸せであっていいのだ。

2回目も観に行ってみた。台詞ひとつひとつの繋がりがわかって面白かった。意図的なずらし方かはわからないが主人公の台詞が浮く場面があって、興味深かった。

マホちゃんが父に言い放つ「弱いものが意見しちゃいけないの」とか「なんでこわいとか恥ずかしいとか思わないといけないの」とか、主人公が妹に言い放つ「仕方ないじゃんこれが私だから」に反応してしまった。最後に遠藤がいった「同じような人がいるってだけで、いいやって思った」にとても救われた気になったし、そう思えた過去のある刹那を思い出せた。普段出せない、出せなかった、叫びを代弁してくれた映画だった。