次に呑む日まで

呑める日が来るまでの往復書簡

感想文(2022年7月)

どうも、ジュン・チャンです。

7月は選挙や国試、引越しで思いの外慌ただしく、お手紙書けませんでした。

回復したら長々溜まってた色々をタカシナに送ると思います。楽しみに待っていて下さい。

 


【2022年7月】

(映画)

① 高見剛監督『風の記憶 湯布院・日生出台1996〜2022』

(本)

①藤本徹『青葱を切る』

山田宗樹『百年法 上・下』

 


【所感】

(映画)

①高見剛監督『風の記憶 湯布院・日生出台1996〜2022』

吉森睦子さんに誘われて、山を越えて行ってきた。当日17時に完成したらしい。カッコいい。

1995年の沖縄駐留米軍による少女暴行事件を機に、本土数箇所に訓練場が分散された。そのうちの一つが大分県の日生出台という場所だった。

自分は大学での恩師の一人が、この暴行事件を機に沖縄近現代史の研究を始めたこと等から、この手の話題には関心があり、人よりは知っていると思っていた。

しかし、大分県に軍事演習場があると知ったのは、大分に来てからだった。

映像では、反対運動がもともと町政と市民が一致団結して始まり、国の圧力から市民の活動となっていた流れが示されていた。こうした運動の流れ、米軍の演習や外出がルールを無視したものになっている現状について、丁寧に編まれていた。

印象に残ったのは、冒頭で衛藤さんが牛を放牧する場面、そして武器が強力化され激しさを増す軍事演習の場面だった。生活するスレスレの場で、人を殺すための兵器が演習の名の下に使われている現状。軍事費増強を掲げる政党に投票した人は、こうした現実を目の当たりにしたら何を思うのだろうか。

沖縄における米軍属による性暴力事件については、2016年にも、女性が米兵に暴行され、遺体を遺棄される事件もあった。他人事では全くない。

沖縄へ押しつけている基地負担、地方に強制的に押しつけられる軍事演習場。国による地方の軽視を感じざるをえない。

このような状況下で、2022年の参院選において「沖縄の米軍基地を東京に引き取る党」が東京選挙区から立候補したのは、考えるきっかけとして大きかったのではないかと思う。自分がそう思いたいだけかもしれないが。

上映後のトークで、衛藤さんが最後に言っていた「自分達の足元で起こっていることを無視しない」におおいに頷いた。身近な生活の場で生じる理不尽を、誰かが我慢を強いられるのを、僕は無視したままで生きたくない。

 


(本)

①藤本徹『青葱を切る』

カモシカ書店で一目惚れ。チマチマ読んできたが、国試が終わった夜に一気読み。

作品毎に変わる視点が面白い。詩を読んで場面が思い浮かぶって、とても楽しいこと。

hitofukiで夏にまつわる詩をいくつか声に出してみた。益々味わい深かった。

 


山田宗樹『百年法 上・下』

久々の小説。著者は『嫌われ松子の一生』原作者だった。正剛文庫よりずっと拝借していて、試験後にようやっと落ち着いて読み出す。

読み出したら止まらなくなり、下巻は「寝る前にちょっと読むか」と読み出したら読み終えてしまい、深夜1時を回っていた。同じ姿勢で微動だにせず4時間。ここまで読ませる本は原田マハ作品以来だ。

ジャンルとしてはSF作品らしいが、ないようでありそうな未来を描く。不老化処置を受けた人間は、処置から100年経過すると基本的人権を剥奪され、死を迎えることとなる。政治家、市民、警察、拒否者(100年の経過措置を拒否する者)など、あらゆる視点の登場人物が現れ、絡み合いながら物語は進む。その分、内容がとても立体的で現実味を帯びていた。

以下、印象に残った一文。スケールの大きな本作中で、何気ない場面で地味に真意を散りばめる著者の手腕よ。

[ しかし加藤には、なんとなく納得できた。人生を左右するほどの大きな決断が、常に衝撃的な事件が引き金になって下されるとは限らない。日々の何気ない出来事や出会った言葉が、いつの間にか、人の進むべき道を方向付けていく。後から振り返っても、どれか一つを選んで原因だと特定することは難しい。生きるとは、そういうものではないか。(下巻P59)]

完全無欠な社会も、政治体制も存在はしない。そのことを理解した上で、自分の感覚を研ぎ澄まし、かつ考え抜くこと。『彩雲国物語』という小説で、初の女性官吏という設定の主人公が言っていた台詞を思い出す。曰く「次善の策は考えない」である。